税理士・社会保険労務士をめざすうさみみミカエル227

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寡婦(夫)控除とひとり親控除の話

所得税にはいくつか所得控除があるが、その中の1つに寡婦控除というものがある。

 

日本の税法上おそらく唯一、納税者本人の性別が関係する制度である。
 
文字通り対象は女性だが、似たようなもので男性を対象とする寡夫控除なるものもあり、よく寡婦(夫)控除とまとめられる。
 
 
 
 
 
2019年度時点で、この制度は次のようなものである。
 
なお、死別には生死不明も含む。
 
寡婦控除
 
○要件 以下のどちらか
 
1.夫と死別または離婚し再婚していない人で、扶養親族または生計を一にする子がある
 
2.夫と死別し再婚していない人で、合計所得が500万以下
 
○控除金額
 
・所得から27万円控除
 
 
 
寡婦控除のうち、特別の寡婦に該当する場合
 
○要件
 
・夫と死別または離婚し再婚していない人で、生計を一にする子があり、合計所得が500万以下
 
○控除金額
 
・所得から35万円控除
 
 
 
寡夫控除
 
○要件
 
・妻と死別または離婚し再婚していない人で、生計を一にする子があり、合計所得が500万以下
 
○控除金額
 
・所得から27万円控除
 
 
 
 
 
もともとこの寡婦控除の創設は1951年と大戦後すぐであり、夫が戦死した母子家庭を支援するものだったという一説がある。
 
その後、死別だけでなく一般的な離婚にも適用され、男性にも適用されるようになった、という話もある。
 
 
 
しかし、この寡婦(夫)控除、適用要件を見てもらえればわかる通り、問題点が2点ある。
 
1つは、本人の婚姻歴によって控除の有無が変わる点である。
 
基本的には死別または離婚したひとり親が対象であり、未婚のひとり親には適用されない。
 
はたから見たら似たような家族でも控除の有無が異なるのである。
 
 
 
極端な話、「子どもができた」「婚姻届けを出す」「夫死亡」の順番が違うだけで大違いである。
 
子どもができ、婚姻届けを出した後に夫が死亡した場合は控除が適用になる。
 
しかし、子どもができ、婚姻届けを出す前に夫(となるべき人)死亡した場合には控除は適用されない。
 
その後ひとり親になるのは変わらないのに、どうして控除の有無が異なるのか理解に苦しむ。
 
 
 
 
 
もう1つは、本人の性別によって控除の要件や金額が変わる点である。
 
特別の寡婦寡夫控除を比べてもらえればわかるが、同じ要件でも男女で控除額が異なる。
 
もともとは女性の所得が比較的少なかったからわかるような気もするが、現代では完全ではないにせよ収入の男女差は改善しつつある。
 
そのため、制度の男女差が不合理な気も多少はある。
 
 
 
 
 
というのが以前までの制度である。
 
 
 
 
 
2020年度からは、上記の問題点をある程度解消した「ひとり親控除」なるものが従来の寡婦(夫)控除に代わって適用になる。
 
 
 
○要件
 
・現在婚姻をしていない人(配偶者の生死不明含む)で、生計を一にする子があり、合計所得が500万以下
 
ただし、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある(いわゆる事実婚)場合は除く
 
○控除金額
 
・所得から35万円控除
 
 
 
このひとり親控除には、婚姻歴の有無および男女差はなく適用になる。
 
従来の特別の寡婦および寡夫控除の要件に未婚が追加され、控除額が35万円にそろえられた。
 
 
 
ただし、改正後も寡婦控除がなくなるわけではなく、要件を変えて残る。
 
○要件
 
・ひとり親に該当しない女性のうち、合計所得が500万以下であり、以下のどちらかを満たす
 
1.夫と死別
 
2.夫と離婚して子以外の扶養親族がいる
 
ただし、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある(いわゆる事実婚)場合は除く
 
○控除金額
 
・所得から27万円控除
 
 
 
この新しい寡婦控除は文字通り女性のみが対象になるため、寡夫控除なる名称が廃止になることも補足しておきたい。
 
 
 
 
 
というか、いつも思うがこれを毎年経理担当者は年末調整の際に確認するのだろうか。
 
あくまでも扶養控除等(異動)申告書での自己申告であるが、1年もたったら独り身になった理由なんて本人以外忘れていそうである。
 
事実婚かどうかも現状では住民票に記載されているかどうかでしか判定できないようなので、それ以上は経理担当者が突っ込めないと思われる。
 
 
 
 
 
 
 
もともとの寡婦(夫)控除は、伝統的な家族観に基づいて残っていたという声もある。
 
男女が(民法上)結婚して子供を育てていく、というのはその中の1つであり核となる部分であろう。
 
しかし、現代ではそのような観念も足枷となる場面も多い。
 
 
 
民法上の婚姻による税法の適用の違いについては、所得税相続税にまだ数多く残っている。
 
婚姻なる制度も民法上のものでしかないのだが、その制約や特典もまだまだ多い。
 
しかし、それらが時代にそぐわなくなるのも時間の問題なのかもしれない。